(あ、嫌われた。)
それは常々一本調子気味な幼いスザクにでも手にとるようにわかることだった。
でも明日からは同じ学校に通うわけだし、仲直りはその時どうにかなると思う。
だいたいあいつが男ならなお更、女の子みたいに引きずったりしないだろ。
仲直りの事は軽く結論付け、考えることをやめたスザクだったが、なかなか解決しないことがあった。それはいまだにルルーシュに傾いている“多分、恋愛感情”である。
「変、なのかな…」
そうぼそりとつぶやいた。
まさか男とは思わなかったんだ、皆だって絶対最初は女の子だって思うさ。
それにさ、綺麗だと思ったから「結婚してくれ」って言っただけだし…そんなに怒られる事かよ…。
それに、なんか。まだ、ドキドキしてる気がする。なんだこれ。
会見中、スザクは頭の痛みなどとうに忘れ、ルルーシュを不思議そうに見ていたのだが、一度も目があうことはなかった。
それもそのはず、ルルーシュは気が気ではなかった。
なんてがさつな奴なんだ…!
あんな無神経な事をしてくる奴はこの十年いなかった。断言してやる。
あいつと明日から同じ家で生活して同じ学校へ行くなんて…
いっそブリタニア本国に帰ってしまいたい気分だ!
と、続けそうになったルルーシュだったが、それはプライドや決意を捨てるような気がして投げ捨てた。
「はぁ…」
一息ついて落ち着こうとしたが、なれない正座の上に置いた両手を見ていれば、未だ怒りがこみ上げてくる。
(…この手であいつのことを殴ってもいいだろうか。)
いや、駄目にきまってる!そんながさつな事をしたらあいつと同じじゃないか!
あんな奴と僕が同じにされるなんて屈辱でしかない。まっぴらごめんだ。
そうしてルルーシュの頭に血が昇りすぎそうになったところで、会見は終わった。
もちろん2人は会見中の話など全く聞いていなかった。
その結果、スザクと部屋を共にすると知った時のルルーシュの表情といえば、兄であるシュナイゼルでさえ見たことがない顔だったという。
部屋に案内され到着するや否やルルーシュはスザクに話しかけた。
「おい、枢木スザク君。」
振り返った何も詫びる気などないという表情のスザクを見て余計に腹が立つ。
「ん?何?スザクでいいぞ」
「僕は君と親しむ気などない!いいな、同じ部屋だろうとなんだろうと、僕に話かけるなよ」
「はあ?そんなん無理にきまってんだろ、同じ部屋だし」
「黙れ!いいから話しかけるな!僕は君が大嫌いだ、覚えておけ」
「なっ、そんな言い方ないだろ!」
ふいと顔をそむけ、そそくさとその部屋で生活を始める準備をはじめるルルーシュの背中をみてスザクは複雑な気分でしかなかった。
そのさぁ…俺が悪かったのは認めるとして、この避けようは酷いだろ?何様なんだよ!
嫌なら今からでも特別視してもらえばよかったのに。
そうすりゃ俺と同じ部屋じゃなくて、俺も気楽だったんだ!あと…
“大嫌いだ”に自分は傷ついたらしいのだが、それはどうも認めたくないと思い、口を尖らせた。
そして半分に割られた自分のスペースに座り込む。
(そうだ、こんな女々しい奴に俺が恋とかするわけない!ぜってーに無視してやる!)
そう皮肉っても、明日から仲直りできるのかということを気掛かりにしている自分にまた腹が立ち手の甲を軽くつねった。
一緒の夕飯も2人に会話など一切なく、仲良くしてほしい玄武らからすればお行儀が良いと褒めるしかなかった。
その後の風呂や色んな支度もルルーシュがどうにかこうにかスザクと一緒になることを避け、最終的にスザクは一人部屋に居座ることとなった。
「つまんねぇの…」
落ち着くのは嫌だと運動していれば、早々にルルーシュはお風呂から戻ってきた。
熱い風呂にはなれていないからか逆上せているようで、顔が真赤だ。
“水もってきてやるよ!”
と、あわてて声をかけそうになったスザクは“話しかけるな”と言われたことを瞬時に思い出し、唇を噛んだ。
(こんな奴に水なんてもってきてやるかよ! )
一方、話しかけるなと言ったルルーシュも少しばかり困っていた。
…同じ部屋で、この関係が続くのは面倒だ。
だからといって軽く話しかけると“人には話しかけるなと言っておいて”とか言ってきそうだし…
ならどうやって仲直り…。ああ、勘違いされちゃ困る、僕は仲直りなんてしたくない。
そんな事を思い、ふらふらと水を飲みに向かった。
戻ってきたときにはスザクは早々に寝る支度に取り掛かっていた。
押入れから布団をひっぱり出している。
(そうか、ベッドじゃないんだな…。)
異文化に目を軽く細めつつルルーシュも布団を取り出しに向かった。