「殿下あぁあぁあぁあぁ~~~!!」
昔と変わらない急な石段を登り終え、一息ついたところで屋敷の方から悲鳴にも似たような声を出しながらルルーシュに迫ってくる大きな人影…。
「じぇ、ジェレミア…」
ルルーシュが空港で待っていられず、置いてきてしまった護衛のジェレミアが涙や色々な物をたらしながら主の元に飛びつく様に縋ってきたのだ。
「ルルーシュ様の身に何かあったかと心配で…!何処もお怪我はございませんか?!」
「あ、あぁ、大丈夫だ…」
一人で勝手に動いて迷子になった。なんて口が裂けてもいえない雰囲気になってしまっている事に気まずい笑みを浮かべるルルーシュにスザクがそっと割って入ってきた。
「ジェレミアさんすみません。実は僕がルルーシュに無理言って出てきてもらったんです」
人のいい笑みを浮かべながらスザクが爽やかに言うのを見て、一瞬何の事だろうと頭にハテナマークを出したルルーシュに目配せをするスザク。
「そ、そうなんだ!実は久しぶりに会うのでゆっくり話そうと思ってだな…!」
スザクの意図を汲み取ったルルーシュがジェレミアに平然を装いつつ話す。
「そ…そうだったのですか、安心致しました…。私はてっきり誘拐か、ルルーシュ様のせっかちな性格が出て一人で飛び出して迷われてしまったのかと…」
「ふ、不敬だぞ…!ジェレミア…」
確信を突かれた事を隠すように厳しい顔でジェレミアに睨みを利かせるとジェレミアは物凄い勢いで三歩下がり、地面に額を擦りつけた。
「も、申し訳ありません!!」
その必死なジェレミアの様子が居た堪れなくなり、ルルーシュは直ぐに「冗談だ」と顔を上げさせたがスザクはそのやり取りがつぼに入ってしまったらしく、声を抑え肩で笑っていた。
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コンコンッ
柱を叩く音と共に襖が開かれる。
「ルルーシュ、お風呂沸いたからどうぞ」
スザクがバスタオルや着替えを持ちながら教えてくれた。
「あ、ありがとう…」
こうしてスザクから衣服を借りるのには訳がある。
もちろん最初から手ぶらで来ようと思っていた訳じゃない。
自分の荷物が手違いがあったために届くのに二日かかってしまう事が原因だ。
そうなってしまったのは俺がジェレミアを置いて空港を飛び出してしまったから…。
俺が出て行った事にいち早くジェレミアが気付いたらしく、そのまま探しに出てくれたようだが会う事はなく…。
荷物だけが取り残され、空港側は皇族の物とわかるその荷物を丁寧に送り返してしまったらしい。
気まずそうに、差し出された服を受け取る俺にスザクはにこやかに言った。
「そんなに気にしなくていいよ。この前は君、殆ど手ぶらだったじゃないか」
「そうはいっても…というか、良くそんな昔の事覚えているな」
スザクが楽しげに言うのに対して俺は困惑気味だ。
七年前は社会勉強も兼ねていた事もあり、自分の持ち物を持ってくることが許されていなかったからで…。
「ルルーシュの事だからね…!なんでも覚えてるよ?」
ルルーシュは自分の中で色々な言い訳を考えていたのにスザクからのこの甘い言葉と、溶ける様な優しい微笑みで全て真っ白になってしまった。
「お前…やっぱり変わったな」
ふらふらと壁にもたれながらルルーシュがやつれた声を出す。
(こいつは天然なタラシで、フェミニストだ。あれ?タラシとフェミニストって殆ど同じ意味か?あぁ俺は余程混乱している…)
あまりにも記憶しているスザクとは違っていた為に混乱を隠し切れないルルーシュ。
そのルルーシュにスザクは優しい笑顔をそのままに、そのふらついた身体を支える。
「あ、危ないよ、大丈夫?わ…!っていうか、ルルーシュ細すぎるよ」
ルルーシュの肩を抱いたスザクが驚きの声を出す。
「そ、そんなに細くなどないっ!人並みに食べているし、筋力もちゃんと人並みだ!」
(というか、俺の話はスルーか…やっぱりそういうところは変わっていないのか)
むきに話すルルーシュをみて目を丸くするスザク。
「ふふっ…!君はかわってないね。あの頃のまま可愛いよ」
笑顔で話すスザクをみてルルーシュは雷に打たれたような衝撃を覚える。
それは、今まであまり感じたことのない怒りの衝撃。
「お、お前は…!どうしてそんな奴になったんだあああ!」
胸元を摑みかかり怒鳴るルルーシュ。
「え…?僕何か悪い事いったかな?」
「あぁ、しっかりとな」
七年ぶりに見る友人の切れ方が豪快だったのと、予想していなかった事で怒られ、呆気に取られるスザク。
少し考える素振りをみせ、次の瞬間今までにないくらいの真面目な顔でルルーシュにいった。
「そっか、ごめんね。ルルーシュ…君に会えた事が嬉しくて、つい…はしゃぎすぎた、謝るよ」
悲しげに揺れる翡翠をみてルルーシュは少し言い過ぎたとおもう。
「それに…僕が変わったのはルルーシュの為だから…。だから…」
摑まれていた胸元の力がゆるくなるのがわかるとスザクはルルーシュの腕をつかみ、引き寄せ、そして…。
「……っ!!」
ルルーシュの後頭部を優しく支え、軽く唇を合わせるスザク。
そのいきなりの行動にルルーシュは目を見開き、脳内は真っ白になってしまっていた。
つづく