夜中の具合の悪さが嘘のように体が軽い・・そしてかすかに覚えている唇の感触・・。
あれは夢だったのだろうか・・・。
第一印象が最悪な枢木スザクが昨日の晩苦しがってうなされている自分を労わって看病しいていたのかと思うとちょっとイメージが変わってくる・・。
見た目からして「自分本意」とわかるあいつが嫌っている自分をあそこまで看病するだろうか・・・
朝の支度をしながらルルーシュがスザクをチラッと横目で確認すると何事もなかった様に学校へ行く支度をしているスザクを見るとやっぱり昨日のは夢かと思わされる。
「(でも・・)」
自分の唇に残る感触に顔が火照る。
そんな事別に気にする事じゃない・・・!あれが夢でなかったとしても医療行為だったのだから別に恥ずかしがる事じゃない。
ただ・・・あれが夢でなかったとしたらスザクに借りが出来てしまった・・。礼の一つも言えない様な無作法ものになるのも嫌だ。そう思いながらスザクに遅れないようにこれから毎朝通るであろう「通学路」を覚えながら歩いていたが我慢の限界だ。アレが現実なら現実とちゃんと確かめよう・・・足を止めて地面を眺める。
「ど・・どうしたんだよ」
スザクが口ごもりながらルルーシュに話しかけてくる
「確かめよう」と思ってみても何か自分からは言い出しづらい・・・。
「?どうしたんだ?また体調悪いのか?」
「また体調が。という事は、夢じゃないんだな・・・」
知らずにスザクの口から真実が聞けた。
その様子にスザクはとてもきまづそうな顔をしているが正直助かった・・。
自分から話しかけるなといっておいて軽々しく離しかけてあの事が夢だったらたまったもんじゃない・・。
少しひねくれているような考え方でもルルーシュ自身は昨日の事をとても感謝している・・正直な話とても辛かった・・。
なれない土地でなれない風習・・自ら言い出した留学の話。皇族らしく扱ってもらいたいとは微塵も思わないがやはりなれないことはする物じゃない・・。
熱にうなされ始めて判った。自分がどれだけ無理をしていたか・・。
そんな弱っている自分を甲斐甲斐しくも看病してくれたこの枢木スザクには礼を言うのが正しいと判っている・・んだが・・・。
「カン違いするなよ!お、俺はお前がなんか辛そうだったから水を飲ませただけでっ・・!」
スザクが言い訳のような言葉を発している間にルルーシュの頭はフル回転だ。
言葉を選んで礼をするはずだったが一生懸命なスザクの顔を思い出しそれはふと自然に言葉に出てきた
「ありがとう」
「え?」
流れ出た言葉が伝わらなかったのだろうか・・・それにしても二回も言うとは思っていない。覚悟を決めて放った言葉を聞いていないとは・・少しの苛立ちと羞恥を込めて今度こそはっきりと言葉にする
「ありがとうといったんだ!一回で聞き取れ馬鹿が!」
「お、おうよ!」
素直に他人にありがとうなどと軽々しく言うのは初めてだ・・・。
それにこんなに恥ずかしいのも生まれて初めてだ・・。
自分の失態を見せてしまうのもだし、それに加えて嫌っている奴から受ける施しなんて・・・。
そうは思ったルルーシュだったが枢木スザクの印象ははじめよりも数段マシになっている事に気がつく。
口や行動派荒っぽいが「優しい奴なんだな」と感じた。
多分顔が赤くなっているんだろう・・顔が熱い・・。
それよりもあの事が夢じゃないならあの口に当たった感触も夢ではなかった事だよな・・?
あれは・・・・
速めた足はそのままにルルーシュが考えると余計に顔の赤みが増す
いや、ちがう・・あれは医療行為だ・・!!断じて僕が考えたことじゃない・・!!
自分に言い聞かせて歩くスピードを緩める・・・
それにあわせて歩いていたスザクの歩幅も縮まる・・
(あわせてくれているんだな・・・)
なんとなく判ってはいたが確信が持てるとまた違った一面が見えてくる・・・。
そんな風におもい歩いていると学校に到着する。
沢山の子供がそこから校舎へと入り挨拶を交わす・・。
その和やかな雰囲気に任せてルルーシュは口を開く
「なぁ・・枢木スザク・・」
「な、なんだよ」
「話しかけるなって言ったの・・なしにするよ・・」
まだ赤みの残っている顔をしているのには気付かないで欲しいから俯きながら少し小さめな声で言ったと思う・・。
「あ、・・うん。わかった」
驚いた表情のまま固まっているスザクの横をすっと通りその校舎にルルーシュも吸い込まれるように入る・・。
スザクの繰り返される毎日の光景が、驚くほどの変化を遂げていく・・・。